§106 大きな絵画に白滲む

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 世界に白い脅威が滲み始めてから数日が経った。  しかし、その事実は未だに人々の間には広まっていなかった──。 「そ、村長……」  青い短髪の青年は座り込み、既に息をしていない女性を抱き締めながら目を見開いた。  こぼれ落ちる涙。  潤んだ青年の瞳には、白く長い髪を一つに結んだ初老の男が映る。  ヴィルガイア王国内にひっそりと暮らしていた集落フリアトリエルはほぼ壊滅状態となっていた。  白い霧は村の中を染める。  その中には鼻を突く血の臭いが充満していた。  ある家は潰れ、またある家は燃え、地面の上には沢山の村人が血まみれとなって倒れている。  老人、女、子供、男、関係なしに折り重なった人々を冷たく見下ろすのは──人間界へと入り込んで来た精霊達。  人間のような精霊もいれば、中には空想上の悪魔や天使に似た精霊もいる。  しかし、彼らが精霊である事に気付いている人間は、この場ではロスカー=イネラス村長ただ一人。 「……グーディよ」  イネラス村長は血が滲む腹を押さえ、片膝を地面につく。  大きな手は、青年の肩を強く掴んだ。 .
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