昼下がりの身勝手

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「リン」 か細い声で呼びかけると、「ママ」と足元まで寄ってきて「抱っこ」と両手を広げた。 その小さな身体をギュッと抱きしめながら、もう一度呼ぶ。 「リン」 私の娘の名前。 誰よりも愛しく、世界で一番大切な人。 「ママ、ママ」 「ごめんね、リン」 リンの背中を撫でようとした時、右手に握りしめていた携帯が床に音を立てて落ちた。 ああ、私。 今まで何をしていたんだろう。 ピロリンとゲーム特有の機械音が、小さな機器から流れる。 祐一君。 それは、私の中では確かに存在していた『存在』 彼はどこにいたのだっけ。 そうだ、携帯の中。
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