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単調に鳴り続ける携帯電話の着信音で桃矢亮輔(とうや りょうすけ)は目を覚ました。
起きたばかりの焦点の合わない視線を壁掛け時計に向けると、約束の時間はとうに過ぎている。
「わりぃ。今起きた」
『別に構わねぇけど……今、お前どこに居んの?』
電話口の柳祐樹(やなぎ ゆうき)はいつもの調子で淡々と、どちらかというと聞き取りにくい声でボソボソと喋る。
「会社」
桃矢は不機嫌に、一言で返す。
『また帰らなかったのか。相変わらずだな』
「……データは送ったんだけど届いてるか?」
定時で仕事を終えた後、理由をこじつけ事務所に残り、柳に頼まれていたフライヤーを仕上げた。
柳は自身の服飾ブランドを立ち上げ、最近ではそこそこ名前も売れ始めている。
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