【旋 律】前編 第五章

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  「楓君のお母さんってどんな人だったの?」 円香はそう聞いた後「私ったら、何、聞いてるんだろう。ごめんなさい」と慌てて頭を下げた。 「そんな謝るようなことじゃないですよ。 ……僕が幼い時に他界してしまったせいなのか、優しかった記憶しかないんですよね。 心配かけさせて泣かせたこと、いつも笑って話を聞いてくれたこと、あと、お菓子とか作ってくれてた記憶があるなぁ」 「お菓子ってどんな?」 「うーん、記憶にあるのはアップルパイとか……ハッキリは憶えてないんですけど」 そう言って微笑んだ楓の姿に、やはりつらいことを聞いてしまったと円香は後悔し、話題を変えるべく顔を上げた。 「――そういえば、弁論大会は、いつなの?」 「地区予選は7月上旬です」 「地区予選なんてあるんだ、本格的だね」 「そうなんですよ、本格的なんです」 「なんだか、私には未知の世界だな。一回観てみたい」 「じゃあ、観に来てくださいよ。観戦に来る人もいるんですよ」 「そうなんだ、でも一回戦敗退する姿をみるのもあれだから、地区予選通って全国大会の時に観に行こうかな」 クスクス笑ってそう言うと、 「望むところですよ。 これは地区予選、意地でも通過しないと」 楓はそう言ってスクッと立ち、体を伸ばしたあと円香を見下ろした。  
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