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「楓君のお母さんってどんな人だったの?」
円香はそう聞いた後「私ったら、何、聞いてるんだろう。ごめんなさい」と慌てて頭を下げた。
「そんな謝るようなことじゃないですよ。
……僕が幼い時に他界してしまったせいなのか、優しかった記憶しかないんですよね。
心配かけさせて泣かせたこと、いつも笑って話を聞いてくれたこと、あと、お菓子とか作ってくれてた記憶があるなぁ」
「お菓子ってどんな?」
「うーん、記憶にあるのはアップルパイとか……ハッキリは憶えてないんですけど」
そう言って微笑んだ楓の姿に、やはりつらいことを聞いてしまったと円香は後悔し、話題を変えるべく顔を上げた。
「――そういえば、弁論大会は、いつなの?」
「地区予選は7月上旬です」
「地区予選なんてあるんだ、本格的だね」
「そうなんですよ、本格的なんです」
「なんだか、私には未知の世界だな。一回観てみたい」
「じゃあ、観に来てくださいよ。観戦に来る人もいるんですよ」
「そうなんだ、でも一回戦敗退する姿をみるのもあれだから、地区予選通って全国大会の時に観に行こうかな」
クスクス笑ってそう言うと、
「望むところですよ。
これは地区予選、意地でも通過しないと」
楓はそう言ってスクッと立ち、体を伸ばしたあと円香を見下ろした。
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