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 久保はゴールデンウィーク直前の月末に久しぶりに出勤した。  進藤医院で貰った診断書を提出して、入院していたのを知ると副担の春日も少しは同情してくれた。  とはいえ、同情と小言とは別物らしい。 「――まったく、この仕事は体が資本なんですから。肺炎に掛かって入院とか! 自己管理はしっかりしてください!」 「……はい。以後、気をつけます。」  亜希は理事長の計らいか、休職扱いになっていた。  教室に行くと、久々に会った生徒たちが心配していたと声を上げる。 「久保セン、入院してたって本当?」 「ああ。」 「鬼の……なんだっけ、涙?」 「いや、金棒じゃね?」 「それを言うなら、撹乱だ。辞書を引け!」  戻って早々、小早川と新藤のお馬鹿な回答にツッコミを入れる。 「うわっ! ずっと春日先生で良かったのに!」 「――ほう?」  久保が険しい表情になると、二人して「冗談、冗談」と繰り返す。 「……あ! 久保セン、もう大丈夫?」 「おう。……この通り、全快してるよ。」  そういう割りには、久保は、いまいち元気が無い。  予鈴のチャイムが鳴る。 「――ほら、三人とも。授業するぞ?」  そして、古典の授業にも復帰する。 「ここが『係り結び』な。そこで居眠りこいてる小早川、この和歌の『縁語』は何だ?」 「ふぇ? 援護射撃??」  クラス中からくすくすと笑い声が漏れる。 「――今のところ援護射撃をしてくれそうな奴はいなさそうだぞ。ほら、起きろって。」 「ふぁーい。」  小早川は大あくびをする。  再び、教室に笑い声が上がった。 「よーし、今日は久々に宿題出すからな!」 「ゲッ! マジで?!」 「大マジだ。」 「えーっ! やっぱり、もうちょっと入院しておいてよ。」 「――何だと? 新藤。」  久保は「シンドウ」と呼び掛けると、声を詰まらせる。  生徒たちが、一気に久保に注目する。 「久保セン?」 「ん……、ああ。新藤は中間、-5点採点な。100点でも95点。-5点を出すなよ?」 「何ッ、今の間で考えてたのがそれ?! 久保セン、横暴過ぎ!」 「はいはい。だから、頑張れよ。――はい、日直。」 「久保セェーン! マジ勘弁してえぇぇ!」  教室には新藤の半泣きな叫びが轟いた。
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