花の雫

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うちにあるベッドはシングルで。 「奈々美――」 二人で寝るにはすごく窮屈、なんだけど。 それでもいいかって思った。 必要以上にくっついて、落ちないように腕を絡めて。 「ごめん」 「――えっ?」 「約束守れなくて」 そう言ってあたしの髪をそっと撫でる。 何のこと? 首を傾げるあたしに拓海は困ったように笑った。 「『特別』じゃなかったよな」 「・・・・・・あ」 分かった。 けど、 「俺の部屋なんかでマジ悪いと」 「『特別』だから」 あたしにとっては『特別』だった。 「場所とか、格好とかそんなの・・・・・・」 どうでもよかった。 昨日のことはずっと忘れない。 忘れることなんて絶対出来ないよ。 そう伝えたくて、彼のシャツをギュッと掴むと暖かい腕があたしを包む。 「その顔ヤバイ」 「えっ?」 「めちゃくちゃにしたくなる」 降ってくるのは、甘いキス。 「夏休み、どっか遠くに行こうか?」 そんな声を聞きながらベッドに身を沈める。 「どうせなら海がいいよな」 そうだね、 どうせ溺れるなら、海がいい。 二人で、溺れたい。
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