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漏れる彼の息づかいに、私は目を細め彼を見上げた。
額に浮かんだ汗のせいで長めの前髪が濡れて揺れている。
時々顔をしかめ目を閉じる彼の表情に、「和馬も私を感じてくれてるんだ・・・」そう思うと、嬉しくて、愛しくてたまらなくなる。
これ以上ないくらいに深く繋がっているという喜びが、かたまりになって込み上げる。
「あぁ・・・和馬・・・」
瞳を涙で潤ませ、何度も彼の名前を呼ぶ。
彼の頬に震える手を伸ばすと、彼は微笑み私の手をギュッと握りしめた。
「綾子・・・言えよ・・・その言葉」
彼は、私の首筋に唇を寄せながら優しく囁いた。
「綾子、言え・・・楽になるから・・・」
奥深く突き上げられる快感に、声を隠せず肩で息をつく。
「和馬・・・和馬が好き・・・好きっ・・」
初めて伝えたその言葉。
抑えていた涙がぽろぽろと溢れ出す。
「・・・綾子、おまえはいい女だ。もっと自信を持てよ」
和馬は、穏やかな笑みを浮かべ私を強く抱きしめる。
『好き』 私の囁いたその言葉への返事は、再び与えられた深い口づけだった。
今まで耐え続けた想いは一気に流れだし、長年の間、閉ざしていた私の心を解放する。
和馬、私を貴方で埋めつくして。
都合の良い女でも構わない。
いつか来る別れに怯え一人傷つくのなら、いっそ、すべてを貴方に捧げ壊されてしまいたい・・・。
どんなに自分の気持ちに背いても、この想いは止められない。
きっと、あの夜から分かっていたの。桜が舞うあの夜・・・貴方に恋し、溺れることを。
いつか、あなたが梨花さんと結婚する日が来たとしても、ずっと私を離さないでいて・・・。
例え偽りの関係でも、私を抱きしめるこの腕の熱さと、私を求める唇の熱さは真実だよね?
その夜、私は初めて彼の腕の中で、この上ない幸せを感じながら眠りについた。
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