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◆◆ side 渉 ◆◆
会場に一人残された俺。
広い会場に立ちつくし、会場の優雅な音楽やにぎやかな話し声は、雑音にしか聞こえなかった。
手には汗が滲んでいた。
…こんなはずじゃなかった。
アイツを少しからかったら、呆れた目つきで睨み返してくると思ったんだ。
だって、
まさか
経験がないなんて思わねえだろう。
なのに、アイツのあの反応。
…冗談だろ。
…大失態だった。
俺の言葉も
アイツの反応も
俺だけでなく、菊森にも、周りにいた数人の社員に聞かれて、見られてしまった。
…大失態だ。
『桐谷さん、経験なしだって。』
『マジかよ? 押せばいけるんじゃねえ?』
どこからともなく聞こえたその声が、本物なのか幻聴なのか区別もつかないほど俺の頭は真っ白になっていた。
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