溢れる涙

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「まったく……。素直に体が心配だって言えばいいのに」 私が貴史に向かって言うと、下を向いていた貴史がチラッと私を見た。 「うるせーよ」 ホント、素直じゃないんだから。 私は苦笑いした。 「で?このままでいいの?美由ちゃんこの屋敷2度目だし迷子になってるかもよ」 「碓氷に頼んである」 なるほど。貴史には想定内だったわけね。 二人はきっと似ているんだわ。 お互いを想いあって自分の気持ちを隠してすれ違っている。 でもいつまでもそうしてるわけにはいかない。 日々人の気持ちは変わっていくものだ。 強く想ってれば想ってるほど辛くなる。 現に美由ちゃんは苦しがってる。 楽な道に行きたくなるのは時間の問題。 とはいえ貴史が何を考えてるのか私にはわからない。 奥田物産の副社長に就任したばかりで大変なのは解る。 本当にそれだけなのか? 「大切な子一人、幸せに出来ないのに会社を支えられるの?」 私は我慢が出来なくて言った。 貴史の本性が知りたかったからだ。 「姉さんにはわからないよ。俺のプレッシャーなんて……」 プレッシャー? 「どうゆう事?」 「今の俺には会社もあいつも支えられない。あいつを守ってられない……」 美由ちゃんを守る? 「今日はもう疲れた。部屋で寝るよ」 そういうと貴史は部屋を出て行った。 貴史も何かに苦しんでるって事か……。 私は貴史の後ろ姿を見送りながらそう思った。
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