溢れる涙

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課長が会社を去ってから一ヶ月がたった。 「もうすっかり時の人だねぇ」 ひよりは週刊誌をテーブルの上に放り投げた。 「想像よりも早かったわね」 千恵が冷静にお茶を飲みながら言う。 今は昼休み。 いつものように私達は役員専用の食堂に来ていた。 ひよりと千恵の話題の中心人物。 それは奥田課長。 丁度一週間前に課長は奥田物産の副社長に任命された。 それは毎日メディアで報道される程だ。 「奥田物産の御曹司、副社長に就任。これで奥田物産も安泰か?だってさ」 週刊誌の表紙をひよりが読み上げる。 「イケメン副社長か。なんだか遠い人になった感じ」 私は週刊誌のページを開いた。 課長の写真付きの記事が載っていた。 たった一ヶ月見ないだけでこんなにも顔付が変わっている。 キリッとしたその顔は私に見せていたエロ悪魔の影が一つもない。 「ねぇ。連絡取ってるの?」 ひよりが私に聞いてきた。 「ううん」 私は首を横に振る。 あれから一度も連絡はなかった。 私からもしていない。
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