第零話

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◆ 何も見えない。何も聞こえない。 眼前には永劫に堕ちていきそうな無限の暗闇が広がっている。 足のつく感覚もなく──いや、そもそも足すらなかったのだと気付いたのはすぐのこと。 今、自分には肉体がない。 自分を自分足らしめているのは単(ひとえ)に「ここにいる」という意識と、そして途方もない懺悔だけだった。 思い起こせば因果なものだと×××は思った。 あの日、違えてしまった約束に縛られて、自分はこの何もない場所に囚われている。 ここは現世でもなければ地獄でもなく、かといって天国でもない。 言うなれば“無”であった。 どちらにも行けなかった自分が選んだ永遠の責め苦こそ、「違えてしまった」「守れなかった」という悔恨によって己を罰し続けること。 気の遠くなりそうな漆黒の時間の中で浮かぶのは、いつかあった鮮血の風景だった。 舞い散る桜花とともにその命を散らせた大切なヒト──自分が本当に守りたかったそのヒトを想うたび、胸が張り裂けそうになる。 あぁ、どうして自分はあれほどに愚かだったのか。 どうして狂おしいほどに弱かったのか。 どうして間違えてばかりだったのか。 あんな痛みを知るとわかっていたのなら、何があっても彼女のそばに在り続けたのに。 彼女のためだけの剣として──
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