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何も見えない。何も聞こえない。
眼前には永劫に堕ちていきそうな無限の暗闇が広がっている。
足のつく感覚もなく──いや、そもそも足すらなかったのだと気付いたのはすぐのこと。
今、自分には肉体がない。
自分を自分足らしめているのは単(ひとえ)に「ここにいる」という意識と、そして途方もない懺悔だけだった。
思い起こせば因果なものだと×××は思った。
あの日、違えてしまった約束に縛られて、自分はこの何もない場所に囚われている。
ここは現世でもなければ地獄でもなく、かといって天国でもない。
言うなれば“無”であった。
どちらにも行けなかった自分が選んだ永遠の責め苦こそ、「違えてしまった」「守れなかった」という悔恨によって己を罰し続けること。
気の遠くなりそうな漆黒の時間の中で浮かぶのは、いつかあった鮮血の風景だった。
舞い散る桜花とともにその命を散らせた大切なヒト──自分が本当に守りたかったそのヒトを想うたび、胸が張り裂けそうになる。
あぁ、どうして自分はあれほどに愚かだったのか。
どうして狂おしいほどに弱かったのか。
どうして間違えてばかりだったのか。
あんな痛みを知るとわかっていたのなら、何があっても彼女のそばに在り続けたのに。
彼女のためだけの剣として──
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