婚約者

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―――城に帰ってから、初めて会った婚約者は、私の想像とは違った。 何で助けに来てくれないんだろう。 さらわれた当初の私の脳内にはその疑問で溢れかえっていた。 勇者でもいいけれど、お話の筋書き的には王子様―――この場合は王様だけれど…―――が助けに来るのが筋じゃないの?と、何度か思っていた。 大体、どんな人であろうが、勇者の彼奴よりましに決まっている。 そう思っていたのに、彼は、簡単に私の思考を覆した。 「私にとって、あなたの存在は、私の命よりも大切なものです。 けれども、あなたを助けることは私以外にできる人物がいました。 我が国の民には、私以外の為政者を王にとは望んでいません。 私にしかできないことを、私は優先することを選びました。 これであなたが、愛を御疑いになり、私のことを見損なおうとも構いません」 真っ直ぐ私を見つめる黒い瞳に、私は吸い寄せられた。 強い決意。 それには迷いはないけれども、嫌われることを恐れる色が、若干滲んでいる気がする。 「……ないわ…」 「え……?」 「婚約破棄なんてしないわ…」 思わず口をついて出てきた言葉に、彼は驚いたのはもちろん、私はそれ以上に驚いた。 結婚なんて人生の墓場だと思っていたのに…。 男なんて滅びてしまえばいいと思っていたのに…。 気付けば、この頃から、私は彼が気になっていたのかもしれない。
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