0人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
―――城に帰ってから、初めて会った婚約者は、私の想像とは違った。
何で助けに来てくれないんだろう。
さらわれた当初の私の脳内にはその疑問で溢れかえっていた。
勇者でもいいけれど、お話の筋書き的には王子様―――この場合は王様だけれど…―――が助けに来るのが筋じゃないの?と、何度か思っていた。
大体、どんな人であろうが、勇者の彼奴よりましに決まっている。
そう思っていたのに、彼は、簡単に私の思考を覆した。
「私にとって、あなたの存在は、私の命よりも大切なものです。
けれども、あなたを助けることは私以外にできる人物がいました。
我が国の民には、私以外の為政者を王にとは望んでいません。
私にしかできないことを、私は優先することを選びました。
これであなたが、愛を御疑いになり、私のことを見損なおうとも構いません」
真っ直ぐ私を見つめる黒い瞳に、私は吸い寄せられた。
強い決意。
それには迷いはないけれども、嫌われることを恐れる色が、若干滲んでいる気がする。
「……ないわ…」
「え……?」
「婚約破棄なんてしないわ…」
思わず口をついて出てきた言葉に、彼は驚いたのはもちろん、私はそれ以上に驚いた。
結婚なんて人生の墓場だと思っていたのに…。
男なんて滅びてしまえばいいと思っていたのに…。
気付けば、この頃から、私は彼が気になっていたのかもしれない。
最初のコメントを投稿しよう!