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殿のお決めになられた吉日。
男四人の祝言が行われた。街の気さくな老人が高砂を吟じ、滞りなく行われる。
征鷹様の白無垢は可愛らしく、お顔は真っ赤で終始し俯かれて、いたたまれぬ様子。何故か殿も言った通りに白無垢を着られご満悦のだった。
お背が高いので特注したようだ。かなりの寸法だ。
何故か兄者も白無垢を着せられ、征鷹様同様に俯かれたきりこちらを見られもせずにいる。
何故か自分だけ紋付きを着せられた。三人の花嫁を戴く気分になる。
近所の者も面白半分に余興とばかりに繰り出してきて、用意した紅白まんじゅうはすぐになくなった。殿の御酔狂ときたら・・・恥ずかしいにも程がある。
ただ街の者も殿の酔狂を知っているので、ただの見せものとして楽しんだ様だ。牛鍋屋の方も特別料金で押せや押せやの大騒ぎでだいぶ儲けもあったらしい。
町内の者が帰ると屋敷は急に静かになった。
「兄者、今日は女子の衣装など着せられ窮屈でございましょう。緩りとして下さい」
「済まぬ。お前にまで殿の酔狂に巻き込んでしまって」
「仕方ありませぬ。我ら殿の忍びにて」
「任は解かれておるぞ」
「しかし、そのおつもりでお仕えしているのでしょう?」
「一生お守りしようと思っていた。先だって殿に言われたのだ。お前はお前の道を行くがよいと・・・」
「兄者の道?」
「まだ見つからぬ。ただ幼き頃より殿の為に死ぬる覚悟でお仕えしていたのだ。急に人生を変える事も出来ずにいる」
「私もです」
「このままでよいだろうか」
「ええ、そのうちに見つかりますよ」
「そうだな」
不意に兄者を引き寄せて唇を合わせた。兄も不意の事で真っ赤になられた。
「二人で、お仕えしましょう」
「ああ・・・そうだな」
庭に梅が咲き誇る。もうすぐ春だ。
私達はお互いに寄りかかりながら美しく咲き誇る梅を眺めて笑みを交わした。
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