冷たい手

3/4
110人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
 日向の手のひらが、名残惜し気に私の肌の上を滑る。  未だ行為の余韻が残る身体は、たったそれだけの刺激にすら悲鳴を上げる。  これ以上は耐えきれないと私が抗議の視線を送ると、漸く彼は私から身体を離した。  私の頬をするりと撫で、日向はサイドテーブルに置いていた眼鏡をかける。床に落ちた上着から煙草を取り出すと、黙ってそれに火を着けた。  日向は、人前では決して煙草を吸わない。  彼のそばにいても、残り香が香ることもない。  おそらくは、彼が喫煙者であるということを誰も知らない。  日向は私にはプライベートを隠そうとしない。そのことが、私の気持ちを浮き上がらせる。  彼は、私以外の誰にも、自身を明かそうとしない。だから私も、彼に問いかけるようなことはしない。  彼に必要とされている。  そのことは、ふとした瞬間に伝わってきて、それだけで私はこんなにも満ち足りてしまう。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!