195人が本棚に入れています
本棚に追加
/36ページ
「学校帰りだったな・・・この森を抜けた方が近道なんだ。急にそのオヤジに猿轡はめられて、両手縛られて、ココに放り込まれて・・・。まだチビだったから何の抵抗もできなかった。制服は破られるし・・・酷い格好で帰ったよ」
「お母さんに分かったんだよね。訴えたの?」
「小さい村だし、よそ者の母子家庭だからな・・・庄屋のオヤジにたてつけなかったよ」
「酷い・・・」
「女じゃないしな・・・訴えるってこともできなかった」
「何でここに来たの?」
「お前に嘘ついてたから・・・それともうココで起きた事を切り捨てる為だ。
不思議だよなぁ・・・男に襲われたのに、男でしかイケ無くなった・・・おかしいよな」
急に裕輔は抱きしめて叫んだ。
「航耶さん、もう忘れろ!そんな事、思い出すな」
「ああ・・・帰省したのは理由が二つあって、お袋にお前を紹介したいってのが一番の目的だけど、今更ながら引きずってた事に気がついて・・・お前とここにきて忘れようと思って」
「裕輔・・・来て」
祠を開けると小さなご神体の他に何もない二畳ほどの空間。
埃だらけで小さな窓を開けて風が通り抜ける。
「ここで・・・俺を愛してくれ」
「えっ?」
「記憶を塗り替えたいんだ。あの夏の日の記憶を・・・」
「航耶さん、辛くないの?」
「お前に愛された思い出にしたい」
「いいよ」
裕輔の綺麗な顔がまじかに寄ってきて唇を合わせる。はじめはお互いの唇を確かめるようなキス。次第に舌を入れてお互いを味わい始めた。
静かに風が吹きわたる二人とも一糸纏わない姿で抱き合った。
忌まわしい記憶を愛する人との記憶に塗り替える為に・・・。
自分でも貪欲に裕輔を欲した。自分で快感を追い求めた。裕輔は温かく、そして力強く受け止めてくれた。
「裕輔・・・あ・・・ありが・・・とう」
「航耶さん・・・」
「俺・・・変われる・・・かな?」
「今のままで・・・十分好きだよ」
長い、長いキスをした・・・。もうこの村に来る事も無いだろう。忌まわしい過去はもう記憶の底に沈んでいった。
ドロドロのまま電車に乗って蔵王温泉に宿を取った。雪のシーズンでないのでいい部屋も取れた。
ちょっと贅沢して露天の内風呂付きの部屋にした。
最初のコメントを投稿しよう!