夏の日

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「学校帰りだったな・・・この森を抜けた方が近道なんだ。急にそのオヤジに猿轡はめられて、両手縛られて、ココに放り込まれて・・・。まだチビだったから何の抵抗もできなかった。制服は破られるし・・・酷い格好で帰ったよ」 「お母さんに分かったんだよね。訴えたの?」 「小さい村だし、よそ者の母子家庭だからな・・・庄屋のオヤジにたてつけなかったよ」 「酷い・・・」 「女じゃないしな・・・訴えるってこともできなかった」 「何でここに来たの?」 「お前に嘘ついてたから・・・それともうココで起きた事を切り捨てる為だ。 不思議だよなぁ・・・男に襲われたのに、男でしかイケ無くなった・・・おかしいよな」 急に裕輔は抱きしめて叫んだ。 「航耶さん、もう忘れろ!そんな事、思い出すな」 「ああ・・・帰省したのは理由が二つあって、お袋にお前を紹介したいってのが一番の目的だけど、今更ながら引きずってた事に気がついて・・・お前とここにきて忘れようと思って」 「裕輔・・・来て」 祠を開けると小さなご神体の他に何もない二畳ほどの空間。 埃だらけで小さな窓を開けて風が通り抜ける。 「ここで・・・俺を愛してくれ」 「えっ?」 「記憶を塗り替えたいんだ。あの夏の日の記憶を・・・」 「航耶さん、辛くないの?」 「お前に愛された思い出にしたい」 「いいよ」 裕輔の綺麗な顔がまじかに寄ってきて唇を合わせる。はじめはお互いの唇を確かめるようなキス。次第に舌を入れてお互いを味わい始めた。 静かに風が吹きわたる二人とも一糸纏わない姿で抱き合った。 忌まわしい記憶を愛する人との記憶に塗り替える為に・・・。 自分でも貪欲に裕輔を欲した。自分で快感を追い求めた。裕輔は温かく、そして力強く受け止めてくれた。 「裕輔・・・あ・・・ありが・・・とう」 「航耶さん・・・」 「俺・・・変われる・・・かな?」 「今のままで・・・十分好きだよ」 長い、長いキスをした・・・。もうこの村に来る事も無いだろう。忌まわしい過去はもう記憶の底に沈んでいった。 ドロドロのまま電車に乗って蔵王温泉に宿を取った。雪のシーズンでないのでいい部屋も取れた。 ちょっと贅沢して露天の内風呂付きの部屋にした。
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