試練

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すべてを薙ぎ払ってでもお前と共にありたいと思う。でも、それは裕輔の未来を奪う結果にならないか? 「裕輔、近くにアパート借りろ!今は言うとおりにした方がいい」 「何で!益々会えなくなるじゃんか!今だってお互いの生活で殆どすれ違いなのに・・・このまま離れたら、航耶さん俺と別れる気だろ?絶対嫌だからな!」 「お前の学費は誰が払っている。親だぞ。俺じゃない」 「だったらバイトして稼ぎながら奨学金貰って行く」 「学業にさし障るだろう?」 「航耶さん・・・・」 「聞き分けてくれ・・・裕輔」 そう言いながら溢れてくる涙を噛み殺した。俺はお前の輝かしい将来を穢していいわけがない。 「分かったよ。でも週末には必ず来るから、必ずあんたを抱くからな」 そのまま部屋にいって出てこなかった。 いい気になっていたのかもしれない。受け入れられるのではないかと錯覚していたんだ。これが現実・・・これが世の中。 異質なものは排除対象になる。 裕輔はこれから医師になり、どこかの病院の院長の娘との縁談があるかもしれない。 子供をもうけて、家族を作って・・・。普通の生活を営んでいくだろう。 俺といても不毛だ。俺との愛の生活だって長く続くかわからない。不確実で心もとない。 また独りに戻るんだな・・・。裕輔の穴は埋まらない。一生血を流して生きる位の致命傷だ。 あまりに愛しすぎて、あまりに存在が大きすぎて、耐えられないかもしれない。 その日は結局、酒を飲んでも眠れなかった。今日は裕輔は物件を探している事だろう。自分は普通に業務に就く。 何事も無くしているつもりでも、周りのモノが気を使っているのが分かる。 そんなに分かりやすい人間だったかな?昼休みに佐野が声をかけてくる。 「嫌な事聞くみたいで嫌なんですけど・・・」 「なら聞くなよ」 「裕輔くんとケンカですか?」 「いや、追い出した」 「えっ?何で?」 ふぅ~と溜息をついてからポツリと言う。 「母親が乗り込んできたんだ。もちろん俺達の関係が認められるわけもない。気持ち悪がられたよ」 「そんな・・・先輩も裕輔君もお互いすごくいい関係だったのに」 「幸せすぎたんだな・・・いなくなるとツケが大きい」 しばらく佐野は考え込んでいた。
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