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夜の帳が下りた神社の境内を拓真は歩いていた。
もちろん、神社には街灯という概念がないので月明かりだけが頼りだった。
山のふもとにあるゆえに周りをぐるりと森に囲まれたこの神社は交通の便がいいはずもなく、休日の昼間でさえ参拝者が訪れるのは稀であった。
今歩いている参道もあまり手入れが行き届いておらず、どこにでもある野道同然であった。歩を進めても砂利特有のじゃりじゃり、といった心地いい靴音はしない。
道の両側に広がる森林は暗闇のカーテンでおおわれており、薄気味悪い雰囲気を見事に演出している。
そこにざり、ざり、という土を踏む音が反響し何者かの気配を感じさせる。
もう一里ほどは歩いたはずなのに一向に明かりが認められないのでそろそろ気が滅入ってきた。
足取りも、気分の重さに比例して重くなってゆく。
「そろそろ休むか」
拓真は、近くにあった石に腰かけた。
唯一の音響機器だった足が止まったことにより、聞こえるのは先ほどから容赦なく吹き付ける風の音のみとなった。
その風が長いこと歩いてほんのり汗をかいた肌を冷やしていく。
バスで寝過ごすという単純明快かつあほらしい理由でこんなことになっている自分の不運、いや不注意を恨んだ。
この辺りは「ど」が付くほどの田舎でバスは一時間に一本あればよいほうである。
高校二年生の拓真は一年後に控えた大学入試に向けて塾に通っている。
しかしこんな所によい塾などあるはずもなく、バスで一時間ほどかかるところまで通っているのだった。
「とはいえ、うちから神社ってこんなに遠かったっけか…」
神社の境内がここまで広いはずもないので一瞬「神隠し」という言葉がおもいおこされたが、そんなことがあるはずがない、と頭を振って考えを振り落す。
そろそろ出発しようと思い拓真が腰を上げたとき、背後から何やら楽しそうな声や、まるで宴会を催しているかのような音が聞こえてきた。
拓真は反射的に後ろを向く。
森の中の遠くの方に、淡い光が見える。
そういえば、今は忘年会のシーズンだった。
とはいえ、深夜の森の中で忘年会とは物好きな人もいるものだ。
拓真は無意識に光のほうに歩いていた。
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