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コクン、と瀬名は自分の固唾を飲む音を聞いた。
水上の視線は前を向いているのに、あまりにストレートな物言いは彼女の体を射抜いたかの様に思考を停止させる。
「……え、えと…」
頭が上手く回らない。
一方で、心臓の音は更なる高鳴りを増していく。
どうしてそんな事訊くんだろう、とか
手を握られたり抱き締められたりしたのに今更すぎる質問かも、とか
何で急に質問攻めにあってるんだろう、とか
頭の片隅で余計な疑問が過るが、肝心な答えはどんな言葉に乗せたらいいのか分からない。
(―――今、好きな人…)
逢いたいと募る気持ち。声が聞きたいと願う気持ち。
ふと気付けば思考は彼への想いで埋まっていて。
たった一人のひとの、たった一言に幾度も翻弄されてしまう。
彼がひとつ動くだけで、甘く心地好い感情が体中を満たして。
なのに、正直になれない、偽ざるをえない事への後ろめたさから苦い感情も広がっていく。
もし名前を付けるとするならば、
『好き』という二文字が、それに当てはまるのだろうか。
「…あの…」
言葉が続かない瀬名に、水上は緩やかな笑みを浮かべた。
「じゃあ、その質問はパスという事で。
次の質問。もし、今好きな人がいないなら、俺が彼氏として立候補してもいい…?」
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