それを忌むワケは。

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それは沙那の携帯へ、姉である瀬名からの着信があった時刻より、遡る事二時間の夕方五時半。 「ただいま。 …なんだ、いないんだ」 珍しく定時通りに退勤した沙那は、自宅アパートの扉を開け早々に呟いた。 無人のリビングの隅に通勤バッグを投げつけ、テーブルの前に制服姿のまま座り込む。 頭だけテーブルの上に突っ伏すと、沙那の頭頂部で結われたポニーテールがさらりと肩を撫でた。 はぁ…と、室内に溶けて消えた、沙那の盛大な溜め息。 電源の落とされたテレビ画面を無意味に眺めながら、仕事と趣味と、それからこの家のもう一人の住人について考えを巡らせていた。 瀬名の様子がどことなく違うと、沙那が気付いたのはひと月以上も前、つまり瀬名が水上と出会った初期からであった。 徐々に目についた些細な変化。 少し服がオシャレになって、少し化粧の時間が長くなって。 それを茶化す事はしなかったし、身内という欲目を抜きにしても、沙那は姉を純粋に可愛いと思った。 ただ、瀬名の携帯に関する挙動については酷く気になった。 飾り気の無い真っ白なフォルムは、彼女の携帯に対する執着の無さを表していた。 着信はすぐに応対していたが、メールについてはお知らせランプが光っていようと気が向いた時にようやく見るくらいの無頓着ぶり。 それなのに。
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