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しばらく走り続けると、薄暗い閑静な住宅街を抜け、車の往来が盛んな明るい大通りへと出た。
歩みに変わる沙那の足。
あてもなく歩きながら、車を走らせれば良かったものを、生身で家を出た己を自嘲する笑みが沙那の口から零れた。
ふと脳裏に蘇るのは、先程の電話での瀬名とのやり取り。
いや、やり取りと呼べるほど会話の往復はなかった。
けれど、携帯越しに届いた瀬名の言葉と、自身の口を衝いて出た言葉が耳にこびりついて離れない。
『沙那、ごめん。本当にごめんね』
―――何が。何に対してごめんなの。
やめてよ。もし『いいよ』だなんて返そうもんなら、認めてるみたいじゃない。
それに私だって謝らなくちゃいけないんだよ。
ケータイ勝手に覗いて。独占欲の塊の最低な妹なんだよ。
『お姉ちゃんが、どこで、誰と、何してようが私には関係ない』
―――違う。こんな事言いたかった訳じゃない。
お姉ちゃんの口から事実を聞きたくなかった。そんな流れにしたくなかった。
だから一方的に通話を終わらせたんだ。
誰にも届く事のない言い訳が、沙那の心に浮かんでは儚く消えた。
視界がじわりと滲む。
泣きそうになっている自分が馬鹿みたいに思えて、沙那は瞳の水膜を袖で拭った。
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