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瀬名が心配したのは、沙那が来月参加のイベントに合わせ発行予定でいる、同人誌の件であった。
ここ数日、帰宅するなり休憩もそこそこに、寝る間を惜しんで原稿の制作に取り組む彼女の姿を知っている。
確か、印刷所への入稿締め切りは明日と聞いていたはず、と瀬名は妹の顔を覗き込んだ。
「ほとんど出来てるよ。あとは最後のチェックってとこかな。
四時くらいまでには終わらせて速達で送る予定」
「余裕余裕」と言いつつ、普通郵便でなく速達とギリギリの状況を選択するあたり、マイペースな沙那らしいと瀬名は思った。
支度を終えた瀬名が、玄関の戸を開ける。
ただでさえアパート仕様で重量感ある扉が、外の風圧で一層重たい。
と、隙間から一気に風が入り込み、シューズボックスの上に寝かされていた電気料金の明細書が宙に舞った。
暴れん坊の風は、瀬名の髪を瞬時にもみくちゃにした。
「風がー、ぬわー」と謎の叫び声を放ちながら、危なっかしく共用階段を下る姉を見送って。
自室に戻った沙那は、再び原稿を前にペンを走らせる。
(―――よしっ、完成!)
約四時間後、沙那は宣言通り入稿の手筈を整えた。
今回はデータ入稿。
自宅にネット回線は引いているものの、北川家の経済事情により契約の線は細いため、大容量の送信となるネット入稿は不向きだ。
データをコピーしたフラッシュメモリ、出力見本、入稿申込書をクッション材と共にA4サイズの封筒にくるんで。
沙那は足早に自宅を飛び出し、自家用の軽自動車に乗り込んだ。
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