消えた影と潜む影。

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彼の大きな手にくるまれて、顔だけでなく全身が熱く溶けてしまうような感覚だ。 今宵は熱帯夜でもないのに。 だけど不思議と心地好い。 過去には酷く毛嫌いしていた大人の男性。 その手に包まれる事が、こんなにも心を弾ませ、潤わせ、安らぎを与えてくれるなんて。 もう“あの人”の影はない。 きっとこの人が、過去の苦しみの縛りを解き、これからも真新しく塗り替えてくれる。 (…お姉ちゃん。 お姉ちゃんが言ってた事、ホントだったかもしんない。 男の人の中にもいい人はいるって。 いい人、見つけたかもしんない) バイクのリヤシートの後部に跨がった沙那は、目の前の背中に腕を回した。 体をぴたりと密着させて、顔をうずめる。 星也が腹部で組まれた彼女の手の上に自身の手も重ね、素早く二度叩いた。 出発の合図だ。 やがて始まったのは、全身に響く重低音と肌を撫でる風。 広い背中に体を寄せる沙那も、ハンドルを握り前方を見据える星也も。 ヘルメットの下では、柔らかな笑みを溢していた。
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