彼氏と彼女、その陰で。【前編】

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「たっだいまー」 「只今戻りましたー」 事務所に新たに落ちたのは、男女一人ずつの溌剌な声。 「二人ともギリギリすぎるぞ。あ?いや、昼休憩一分過ぎてるな」 「厳しいねぇ星也は。 いやー、思いの外混雑が凄くてさ、やっぱりオープンしてすぐよりも落ち着いてから行った方がいいね」 「ひょっとしてマスター達、この間できたばかりの駅ビルに行ってきたんですか! うわ、羨ましい!男一人じゃなかなか行けなくて」 「おい滝本、もう仕事時間は始まってる。遅刻してきたヤツに付き合うな」 帰社した保志沢とあやのが加わり、明るみに富んだ声が事務所を賑わせた。 瀬名は呆けていた自分にハッとし、慌てて弁当箱を包んでデスクへ駆け寄った。 付き合うという事は、ただひたすらに幸せ一本、まっしぐらな道ではない。 その陰で纏うものが必ずある。 自分の想いだけを突き抜けば良いのではなく、様々な感情との戦いや周囲への気遣いを忘れてはならないのだと。 付き合い始めて僅か数日、今までになかった課題を痛感せずにいられない瀬名であった。
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