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もとはマンションのダイニングキッチンにあたる休憩室。
備えられたシンクで空になった弁当箱を洗いながら、以前読んだ、恋愛マンガの主人公の少女の呟きを思い出す。
『片想いの方が楽だった』と。
まだまだどちらが楽かなんて、自分には経験値が低すぎるし比べる必要もないけれど。
それでも、付き合う前には確かに無かった葛藤と責任を感じている。
水上を思えば、胸の奥がきゅうと締まって気分が高揚する。
彼の温もりを思い出して、会いたい、せめて声が聞きたいと欲が全身を走り抜ける。
だが一方で、嫉妬と不安という負の感情が影を落とす。
薫が具体的なアプローチをしている場を見た訳でもないのに、目に見えぬ黒い靄は“彼女”という自信を喪失させようと心を蝕んだ。
人によっては人物ではなく、仕事や趣味が嫉妬の対象となる場合もあるだろう。
天秤に計るつもりなど毛頭なくとも、彼女だからこそ沸き起こる感情に翻弄される。
好意を示してくれた涼と、実の妹である沙那への接し方。
どちらも付き合うという行為によって生じた、特に後者は避けては通れぬ課題だ。
報告すべきか否か分からない相手、報告して理解し合わなければならない相手へ、どんな態度で臨めばいいのか。
考えさせられる事柄が山積みだ。
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