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「妹の知り合いって言った方がバレにくかったの?」
「…はい」
「そっか。
瀬名、秘密にしてる事があるって言って知られるの気にしてたもんね。
あの人は誰だったんだろうってずっと気になってたから、ようやく確信が持てて安心したよ」
そう言いつつも、水上の表情はどこか晴れないでいる。
納得したように見せかけているが、『安心した』という言葉が本心でない事は瀬名にも分かった。
肝心の、何の用事があって上司が家に来ていたのか、という説明が出来ていないからだ。
職場の上司が自宅を訪れるなど、そう滅多にある事例じゃない。
ましてや、いくら目的地がコンビニだったとはいえ、男女が揃って彼女の自宅を後にするなんて。
妹の知り合いで留まっていた方が、まだ頷けるというものだ。
詳細を明かした方が良策か。
ならばどこまで伝えるべきか。
きっと彼は、同人誌や創作といった類いの世界を知らないのでは、と瀬名は思った。
事細かに伝えて、引かれてしまったらどうしよう。
オタクな面を懸命に隠していた頃と同じ不安が、再び芽を出す。
「妹さんの知り合いで、しかも瀬名と同じ会社に勤めてる人って解釈でいいんだよね」
念を押すように水上から尋ねられ、瀬名は首を縦に振る。
「それで大丈夫です。
星也さんとの関係はそれ以上でも何でもなくて、偶然妹も知り合いなだけで…」
「…『セイヤ』って、名前?」
水上の顔が、はっきりと曇った。
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