君の名は。【後編】

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全てを食べ終えるまで無言の瀬名だったが、ごちそうさまの挨拶はしっかりと声を出して手を合わせる。 時が過ぎるのは早いもので、暫しの休憩を挟んだところで、あっという間に水上の出勤時刻だ。 「そろそろ行こうか。家まで送るよ」 それを合図に水上はネクタイを締め、廊下を歩きながらジャケットを羽織った。 彼のすぐ後ろに瀬名も続く。 「瀬名」 突然、水上がくるりと後方を振り向いた。 はい、と答えようとするも、瀬名の言葉は彼の唇に封じられる。 「本当は瀬名のアパート前で別れ際にしたいんだけど、朝は人目があるからね。フライング」 そう言って屈む水上は彼女を覗き込み、もう一度軽く口付ける。 瀬名はそっと瞼を下ろした。 初めてのキスから、これでもう何度目を迎えただろう。 唇が触れる度に彼の心と体とリンクして。 『愛してる』『愛されてる』 と、互いに注ぎ合う感覚に胸が打ち震えた。 なのにその感覚が今、和らいでいる。 想いが通じ合えてる気が“しない”キスなんてかつて無かったのに。 今は“好き”が苦しい。 切り替えなきゃいけないと理解していても、重い空気を引き摺ったまま彼のキスを受け入れ、 そしてその行為に、喜びよりも胸の締め付けが勝ってしまった事が酷く悲しい。 目を開けた瀬名に、切なそうに瞳を揺らす水上の顔が間近に迫る。 何でそんな顔をしているの。 瀬名が彼に訊けるはずもなく、「行こう」と出発を促す声が玄関フロアに落ちた。
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