二章 カラマル

38/54
30人が本棚に入れています
本棚に追加
/162ページ
 優しく手を取り、消毒液をかける。止血は警察署でやってもらったので既に血は止まっていたが、傷口が深かったのだろう。啓志は目をつむって痛みを堪えていた。 「こんなになるまで……! 本当に、本当に、ありがとうございました」  傷を間近で見た夕姫の目には、いつの間にか涙が溢れていた。卑劣な行為によって傷付いた夕姫だったが、ここまで自分を想って行動してくれる人がいる事実に心を動かされていた。啓志は、それが出逢った時の悲しい涙とは別の種類の物だということは分かっているが、何と声をかけたらいいかは分からず黙していた。その様子を後ろから立って見ていた両親も、涙を拭い啓志への感謝をそれぞれ口にする。  消毒と絆創膏の貼り付けが終わってからは、今回のお礼ということで出前を取った寿司が振る舞われ、啓志も介助を受けながら舌鼓を打ち、この三日間の努力を振り返って安堵の表情を見せていた。 ◆◆◆◆  翌日。笑顔で学校に来た夕姫は、昨日の欠席について友人たちに心配されたり、校長が捕まった事を夕姫が知らないと思って驚きと共に伝えたりされていたが、廊下でばったり会った啓志を見つけるなり、こう言った。 「おはようございます! 先輩! 私を助手にしてください!」  もちろん初めのうちは啓志には認められなかったし、何より事情をあまり知らない周囲が止めに入った。変わり者に毒される事を心配しているのだろう。啓志としても、良き友人として少しずつお互いを知っていきたいという思いが少なからずあったので、いきなり助手という距離感0の立場になろうとする彼女に戸惑っていた。しかし結果としてこの一言から、今の二人の関係は構築されたということになる。 「本当に、懐かしいなぁ。まだ三年。もう三年? どっちだろう……。あ、もうこんな時間!?」  二人の出逢いを思い返していた夕姫は、いつの間にか日付が変わろうとしていることに気づき慌てて就寝の準備を始めた。次の日の朝、予定より華麗に三十分ほど寝坊したことだけ、お伝えしておこうと思う。
/162ページ

最初のコメントを投稿しよう!