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 10分もすると内田は心配になってきて、時計と風呂場の入り口を交互に眺めた。 (独りにして、大丈夫だったかな……。)  水音はまだしていたが、異様なくらいにそれ以外の音がしない。 「――進藤?」  聞こえてないのか、返事がない。 「おーい、風呂に入ったまま寝るなよ?」  聞き耳を立てたが水音がするだけで物音もない。  内田は急に胸騒ぎがした。  堪えられずにノックをする。  しかし、返事はない。 「――悪い、ドア開けるぞッ!」  ドアノブを回す。  鍵は掛かっておらず、がちゃりと扉が開く。  だんだんと亜希の姿が見えてくる。  ――白い肌。  浴槽に手を浸けた亜希は、陶器のような肌をしたまま、ぐったりとしている。  シャワーの水音に赤い水が真っ赤に染まった湯槽からこぼれ落ちていく。  内田は息を飲んだ。  焦点が合わないままに亜希に近付く。 「……進藤?」  腰砕けになりながら、恐る恐る亜希に触れる。  ――冷たい。  腕を湯槽から引き抜くと、深々と切り裂かれた手首から血が溢れてきた。  頭の中が真っ白になる。 「……進藤ッ!」  半泣きの状態で呼び掛けながら、急いでタオルに手を伸ばす。 「おい、起きろッ!」  頬を叩いて反応を見ても、眉を顰める気配すらない。  その後は無我夢中だった。  止血を試み、フロントに救急車を依頼する。  早急に輸血をしなくては死んでしまうのが素人目にも明らかだった。 「進藤、起きろって!」  何度も呼び掛け続けたがぴくりとも反応は無く、フロントから来た従業員も様子を見て悲鳴を上げる。  その間も亜希の呼吸は弱くなっていく。  内田は怖くて堪らなかった。 「――進藤、死ぬなッ!」  抱き抱えている亜希には、さっきまでの温もりはなく、冷たく陶器で出来た人形のようにすら感じる。  やがて救急隊員が来て、亜希をストレッチャーに乗せても、その感覚は濡れて張り付いたワイシャツのように抜けなかった。 「こちらから乗ってください。」  救急救命士に誘われて、ストレッチャーと一緒に救急車の後部から乗り込む。  取り付けられた人工呼吸器は僅かに白くなるだけで、計器で計っても脈拍は殆ど触れない。 「――閉めますッ!」  外の救急救命士の声に、ちらりとドアの外を見る。
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