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 その日は比較的平穏に一日が過ぎていった。 (一息、入れよっと……。)  そう思って腰を浮かせたところで内線が鳴る。 「はい、内田です。」 『外線二番に高津様からお電話です。』 「……はあい。」  コーヒーでも買って、一休みしようと思っていたのを見ていたかのようだと思いながら、電話を替わる。 「替わりました、内田です。」 『……出るのが遅い。』 「仕方ないでしょう、外線ですから。」 『……普通は申し訳ございませんだろう?』 「普通の顧客には、そうしてます。」 『――ほう?』  売り言葉に買い言葉で、ぴりぴりとした雰囲気が辺りに立ち込めていく。 『まあ、いい。……昨日、見せてもらったのとは別に3000程度で出来る案を至急作ってくれ。走り書きのメモでも構わない。』 「……はい? 昨日はあの図案で予算を計上するって言ってたじゃないですか。」 『ああ、するぞ。』  高津の声色は「当たり前の事を聞くな」と言わんばかりだ。 「じゃあ、なんで別の案がいるんですか? こっちだって、予算計上に使われない案まで出すほど、暇じゃないんですけど。」 『――俺だって、暇潰しに言ってるわけじゃない。お前、あの橋を架けたいんじゃなかったのか?』 「そりゃ、架けたいですけど。それとこれと、一体どういう……。」  しかし、高津はその問いに遮るようにして言葉を続けた。 『――それなら、構わない。ともかく3000くらいで計上するような図案を作れ。』 「だから、何でですか?」 『お前、本当に営業には向かないな……。』 「はい?」  高津が呆れ声で呟く。  そして、静かに言葉を続けた。 『……つべこべ言ってると時間が無くなるぞ?――締切は今日の17時まで。仕事をしないって言うなら、この話は白紙だからな。』 「今日の17時!?」 『ああ。バイパスは使うなよ。今ある道を拡幅する感じで頼む。』  高津からの次々言われる難題に、途方に暮れながら内田は時計を見上げる。  時計はちょうど15時を回ったところだ。 『じゃあ、頼んだからな。』 「あ、ちょっと?!」  そして、一方的に電話は切られる。 「高津さん!」  しかし、返ってくるのは冷たい「ツー、ツー」という電子音だけだ。  内田は苦々しい顔をして、思わず机に突っ伏した。
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