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 ――あと2時間。  いくらメモ書きで構わないと言われても、予算内に収まる気がしない。  資料をもう一度引っ繰り返す。 (やっぱりダメだ……。立ち退き住居が20軒近くなる……。)  環境整備なども費用を見積もったら、とても3000億円では賄いきれない。 (あれで良いって言った癖に……。何で今さら!)  苛々した顔付きで受話器を置くと、地図を広げて眺めた。 「どうした、内田? 訂正か?」  休憩から戻ってきた五十嵐が、声をかけてくる。 「根を詰めすぎるなよ? 今やってるの、締め切り、だいぶ先の仕事なんだろ?」 「――違います。今はさっきのと別件で。あと二時間で案を出せって言われたんです。……この間は、プレゼンした内容で気に入ってたはずなのに。」  そして、高津の無茶苦茶な要望を列挙する。 「――腕を買われたもんだな。」 「関心してないで、何かいい方法ないですか? ちなみに制限時間あと70分なんです。」 「――は?」 「……予算は?」 「3000。」  五十嵐はそれを聞くと、休憩から戻ってきた同僚にも声を掛けて呼び寄せた。  それをきっかけに「なんだ、なんだ」、「どうした、どうした」と人が集まってきて、気が付けば内田を中心に人集りが生まれる。 「三人寄らば文珠の智恵って言うだろう?」  高津の無茶苦茶な要求を、みんなで寄ってたかってやっつけていく。  しかし、途中で陸橋派とトンネル派で分かれた。 「予算が3000億あっても、立ち退き戸数が多いと厳しいな……。トンネルでも掘るか?」 「いや、予算からいけば陸橋だろ。」 「電信柱がなあ……。」 「そんなの地下に埋めれば良いし。」  その後も二つの案は平行線で交わらない。  ――あと20分。 「……す、すみません。そろそろ書き始めないと。結局、どっちなら予算内に収まりますか?」  内田が制裁に入ると、全員が時計を見つめ、視線を逸らす。 「……アアッ、と! 俺、そろそろ、自分の仕事に戻らないと。」 「へ?」 「お、俺も!」  そして、わらわらと人集りが崩れていく。 (もしかして船頭多くして、なんとやら……。)  内田は苦笑いをしながらお礼をした上で、ガリガリと図案を一心不乱に書き始めた。
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