序章【赤い朧月】

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 間宮唯はふと思う。  ドグマというものはテレビゲームでいうとゲームソフトみたいなもので、シンカーはソフトが接続されたハードであると。  つまりドグマは選ばれたゲーム機でしかプレイできないソフトウェア。  それと生涯付き合わなければならないのがシンカーの宿命である。  さて、今更になって間宮唯が世界では常識的な事柄を脳内で呟いているかというと、この事柄を覆すようなことを彼女が成し遂げてしまったからだ。  原因は唯にとって大切な先輩の死。  今は朧月と名乗っているらしい。    その男は首を切り落とされて即死した。  殺した犯人は唯の担任。  これは目の前で殺される姿を確認したので否定のしようのない事実である。  当時の彼女は、人がみんな平和な世界を望んでいると本気で思っていた。  だからこそドグマを所持していたわけだ。  しかし、間宮唯は目の当たりにした。  自分の欲望の為に平気で生徒を殺す教師の姿を。  つまり、それは唯が平和主義を唱える定義が根本から崩れることを意味する。  もしもシンカーが自分の考えをねじ曲げられたとしたら、そのドグマがどのようになるか。  朧月は、その実験の礎になってしまったことになる。  それを間近に見てしまった間宮唯がどうなったかは語るまでもない。  彼女は何もかもが変わってしまった。   とどのつまり実験は成功した。  したのだが、いまいち実感がわかない。  能力は変わったけれど考え自体は揺らいでいないからだろうと唯は実感する。 「ああ、私は夢から覚めたんだ。これが私の真実なんだ」  唯は呟いた。  目の前に転がっているのは泡を吹いて倒れている教師の姿。  そして自分の能力で蘇った朧月。
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