転:絡まる恋

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 「いえっ! 先輩のおかげで私……、ほんと、ありがとうございましたっ」  「とりあえず、江藤には俺から説明するから。お前はもういいよ」  「でもっ」「涼華(すずか)」  まだ言い足りないって感じの顔をもりやんに向けた彼女に対し、もりやんは名前を呼んで制した。  ――うぉう、かっこいー、もりやん。  こんな可愛い子にうるうるの瞳で見上げられたら、超堪らないだろうなぁーなんて、親父みたいなことを考えながら二人の様子を交互にニヤニヤして見ていると、その視線に気がついたもりやんがバツの悪そうな顔をした。  「ちょい、地下行ってくるから」  ふて腐れ気味? いや、多分照れてるんだろう。   後輩の彼女にそう告げると、彼女は私に向かって静かに頭を下げただけで、もりやんの指示に従う姿勢を見せた。  そんなところもすごく可愛い。  下げた頭を上げると、涼華と呼ばれた彼女はふわっと柔らかく微笑んでくれた。  先日のあの電話の1件では久しぶりに辛い思いをしたけれど、彼女のこの笑顔を見たら守れて良かったと心底思う。  あの時あの客の電話を彼女に振っていたら、今彼女はこの場にいなかったかもしれない。  そんなことを考えながら、もりやんと共にエレベーターに乗り込んだ。  エレベーターの中ではどちらも口を開くことなく無言が続き、途中で誰かに止められることもなく降りた地下。  喫煙スペースと食堂、自動販売機が並ぶだけの地下に着くと、もりやんは黙って自販機まで歩く。  その後ろを私も黙ってついて歩き、もりやんの隣に並ぶ寸前に尋ねられた。  「カフェオレでいいか?」  「あ……うん」  どうやら奢ってくれるらしいもりやんにそう答えると、彼は何も言わずに硬貨を投入し始めた。
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