449人が本棚に入れています
本棚に追加
/38ページ
――――――
「お、お、お邪魔、しししますっ」
補佐の家に着いた途端緊張MAXになった私は、舌を噛みながら挨拶をした。
一人暮らしだから気兼ねするなと言われたけれど、それは無理な注文だと思う。何と言っても、相手は毎日お世話になっている上司だ。
その上私は……ごにょごにょ。これ以上は考えないでおこう。
バクバクする心臓と闘いながら靴を揃えて壁際に並べ、出されたスリッパに足を差し入れた。
人生で2度目の男性宅への訪問だ。
もちろん1度目はゴミ箱に捨てて、どっかに埋めたいほど酷い思い出だけれど……
キョロキョロあたりを見回しながら玄関から一歩離れて廊下へ進むと、背後でパタンとドアが閉まる音がした。
――うわうわうわーっ、入っちゃった、入っちゃったよー!
玄関のドアが閉まって密室になると、余計に落ち着かなくなって顔が赤くなってくるし、身体が震えそうだ。
というよりすでに指先がピクピク震えている。
ドキドキ高鳴る胸を押さえながらどうしようかと思っていたら、そのまままっすぐ歩いてリビング行ってろ、と背後から指示が飛んで来た。
「ひゃっ、は、はいぃっ」
「ぶははっ、江藤普通にしてろ」
「ふ、ふふ、普通ですっ」
「そうか」
それだけ笑いながら言うと、補佐は玄関直ぐの部屋にさっさと入って行ってしまった。
取り残された私は唾をゴクリと飲み込み、正面に見える扉を見据える。
――行くしか、ないよね?
ぎゅっと鞄を持つ手に力を込めると、リビングへと続く廊下を一歩一歩踏みしめながら進んだ。
最初のコメントを投稿しよう!