プロローグ

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夢を目標ではなくその名の通り夢を諦めたのはいつだろうか。 無邪気だった子供の頃は恥ずかしげもなく将来の夢に当時の素直な想いを書き綴る。 しかし、次第にその子供たちは現実という大きな壁にぶち当たり、自分の身の丈に合ったものを目指すようになる。 自分の抱いていた夢を叶えるには天性の素質と、膨大な量の努力が必要なことを彼らは思い知るのだ。 そして、それを『大人になる』と自分自身に言い聞かせて。 県立桜甲高校は進学校として県下にそれなりに知られた高校だ。 特別運動部に力を入れているということもないが、野球部は夏の甲子園県予選大会でベスト16をキープするそれなりの実力を持っていた。 もっとも、県内の野球部全体のレベルが一部の私立高校を除いて決して高くないからこの位置でいられ、強豪校のひしめく地域に行けば初戦敗退も珍しくない。そんなレベルだ。 が、二年前。奇跡が起こる――甲子園という高校球児あこがれの聖地へたどり着くことが出来るかもしれないと密かに期待された。 公立の進学校の枠を超えた一人の逸材、大庭鉄也の存在がその理由だ。 強豪校の主砲と比べても遜色のない恵まれた体格とパワーは、プロのスカウトもやってくるほど。 しかし、現実はそう甘くない。例年通りベスト16まで勝ち上がったチームは、プロ入り確実視の超高校級スラッガー神宮寺信一率いる甲子園常連校の前に敗退。 夢の舞台に憧れるだけのチームとその舞台で活躍することを宿命づけられたチームとの差をまざまざと見せつけた。
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