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羅刹さんと湊。
この館に仕える事となり既に幾日かたっていた。
この館での自分の役割・仕事などにも慣れて来たが、まだまだ覚える事は多そうだ。
今からしなくてはいけない事を頭の中で整理しながら廊下を歩いてゆけば、急に後ろへと服が引っ張られ足が止まる。
振り返れば一人の少女が私の服を掴み立っていた。
羅刹だ。
だが、いつもとは少し様子が違う。
初めて紹介された時から、絶やされる事の無かった笑みがそこには無く何処かすがるような表情を見せていた。
「どうした?何かまた壊してしまったのか?」
私が聞けば、羅刹はギュッと唇をかみ締め下を向くと首を左右に振り違う事をアピールする。
「なら、腹でも痛いのか?」
首が再び振られる。
らちが明かずにどうしたものかと、息が漏れる。
「どうしたんだ?言わなければ分からないだろ?」
そう告げると、そろそろと顔をあげ今にも泣きそうな瞳が見つめてきた。
「あのね・・。・・皆、何処か・・行っちゃうの?」
とても小さな声が問いかけてくる。だがその言葉の意味が分からず首をかしげて見せると
「最近。皆。何だか・・怖い。」
その言葉でようやく理解した。
この屋敷に立ち入った時から屋敷全体に何処か緊張の糸が貼りめぐらされているかのようなものがあった。初めのうちは部外者である自分の存在に警戒してのモノかとも思っていたが、数日たった今でも緩む事は無くむしろより一層引きしめられているかのようだった。
何か近いうちに起こるのだろうとは感じていたが、羅刹もまたソレを感じとっていたのだろう。
「炎に聞いても他の皆に聞いても、皆大丈夫しかいわない・・・。」
目を一度伏せるが直ぐにコチラを見つめかえす。
「皆。居なくなるの?」
涙を我慢しているのだろう瞳は潤み今にもその目から雫が零れ落ちそうだ。
「もう・・誰かが居なくなるの・・いや」
誰の事を思っての言葉なのか計り知れなかったが、今ここで私が「大丈夫」と言うのは簡単だった。
だがこの少女はその言葉では、もう納得はしてくれないのだろう。
余計な心配をさせたくないという思いが逆に羅刹を不安にさせてしまったのなら、安易な慰めはいえない。
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