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 建物の中は盛況な様子で、初日や最終日でもないのに長蛇の列が出来ている。  高津は上着に袖を通すと、内田からチケットを受け取って、亜希の手を引きながら、入り口付近の混みあっているあたりを抜け出した。 「亜希、こっち。」 「――うん。」  高津からはぐれないように気をつけて進む。 「風景画?」 「……ああ、そうだな。」  最初はエシャーと同世代の画家の作品や、駆け出しの頃の作品が展示されていて、二人で眺めながら先へ歩んでいく。  時折見回しても、内田やあさ美の姿はなく、自分達が彼らよりも先にいるのか、後にいるのかもよく分からない。  亜希がキョロキョロと辺りを気にし出したから、高津はそっと耳打ちした。 「内田たちを探してるのか?」 「……うん。」 「それなら、ちょっと前に次のコーナーに進んだよ。」 「――そう。」  人見知りしている様子の亜希の姿にくすくすと笑みが零れてしまう。 「そんなに警戒しなくても良いのに。」 「……警戒まではしてないけど。」 「――けど?」  風景画の最後の一枚を見ながら、ひそひそ声で訊ねる。 「気のおけない仲って、『恋人』って事?」  その言葉に高津は片眉を少し上げ、そして、哀しげな笑みへと変わった。 (あ……。)  さっき道端で見せたのと同じ表情に、咄嗟に高津の腕を掴む。  しかし、高津は亜希の質問に答えぬまま、次の「中・後期の作品群」の部屋へと、亜希を誘った。  ――飾られている絵が今までとは一変する。  それまでの作品とは変わり、騙し絵の巨匠の作品がところ狭しと飾られていて、たくさんの人が群がっている。  ――まるで、不思議の国。  高津ははぐれないように、するりと亜希の腰に腕を回す。  逆さまに流れる奇妙な水路の作品の前で、高津は立ち止まると、ようやく口を開いた。  まるで作品の解説をするかのように、そっと亜希に耳打ちをしてくる。 「……普通、水は逆さまには流れない。」  しかし、絵の中のそれはメビウスの輪と同じような不思議さで逆さまに水が流れていく。  表が裏に、裏が表になる。 「――俺と君の関係は、この作品みたいだ。」  きっと他人には理解し難い。  ――傷付け合い。  ――許し合い。  ――愛し合い。  ――再び、傷つけ合う。  その出会いや別れが、どんなに苦しみに満ちていても、決して二人を分かつ事など出来ない。
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