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水曜日の夜。
久保の車に揺られて連れて来てもらったのは、とある一軒家だった。
玄関先には子供用のピンク色の自転車が置いてある。
「こっちだ。」
立ち尽くしている亜希に久保が声をかける。
亜希は「婚約者を紹介する」なんて言われたら立ち直れないから、どんな人に会うのか尋ねられないままにここまで来てしまった。
表札には「松田」と書いてあり、足取りは重いまま久保の後をついて行く。
「――ねえ。」
「ん?」
「会わせたい人って、この『松田さん』って人?」
「ああ。俺の大学時代の友人なんだ。」
久保がチャイムをピンポンと鳴らす。
ガチャガチャとチェーンを外す音がして、30センチほど扉が開く。
「おお、来たか!」
「お邪魔します。」
「いらっしゃい!」
ニカッと笑う松田に、久保もニカッと笑って挨拶する。
「それで、彼女は連れてきたの?」
「ああ。……って、あれ?」
隣にいると思った亜希が、扉の死角に入って見えない。
「まさかのエア彼女?」
「んなわけ、あるか!」
久保がツッコミを入れると、扉の陰に隠れていた亜希がクスクス笑って姿を現した。
松田はしげしげと亜希を見つめる。
「お、可愛い。」
「お邪魔します。」
「……って、若くない? 歳は幾つよ?」
「23です。」
亜希が少し戸惑いながら答えると、松田は久保に向かって騒ぐ。
「ちょっと、お前、何、そんな若い子を捕まえてんの?!」
「亮、耳元でうるさい。」
「いや、だって23だよ? 騙しちゃダメだろ!」
「……騙してないから。」
玄関先の騒がしさに久美子が顔を覗かせる。
「亮、通せんぼしてないで、居間にお通しして?」
久保は苦笑しがてら、挨拶した。
「久美ちゃん、久しぶり。」
「ごめんねえ、亮が無理矢理呼んで。」
「昔からだから俺は慣れてるけど、こっちは面食らったみたいだ。」
そして、亜希の頭にぽすりと手を置く。
「行動力があるって言って?」
「亮のはね、振り回し力の間違いよ。」
「――違いない。」
そんな三人のやり取りを呆気にとられながら見ていた亜希も、「大学時代もこんな感じだったのかな」と想像して微笑んだ。
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