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 土曜日の昼過ぎ。  亜希は久保の隣に座り、母校に向かっていた。  亜希の通った大学は、実家からは100キロ程度離れている。  ちょうど高速を飛ばして二時間くらいだ。  街は遠くなり、郊外へと車は進む。 「――だいぶ遠いんだね。」 「そうだな。でも、ここいらは緑が多くて落ち着くな。」 「そうだね。」  窓を眺める亜希はキョロキョロとする。  松田家に行った日から、亜希はどことなくよそよそしくなっていた。  高速を下りてエアコンを切ると、窓を少し開ける。 「……良い風。」  亜希の髪が風を孕んでなびく。  インターチェンジから大学は近く、すぐに大学構内に到着する。  中は木々が生い茂り、木漏れ日は風で揺れるたびにキラキラと形を変えて差し込んでいた。  門の守衛に確認したところ、教育学部は学校の一番奥にあるとのことで、心理学はその内のA棟にむかうように言われた。 「……ここ、だ。」  行き着いた部屋には「ご相談の方はこちらをノックしてください」とプラカードが下がっている。  約束の時間の五分前だったが、久保はとんとんとノックをする。 「はい、どうぞ。」  中から浜川が呼び入れてくれた。  亜希は緊張しているのか、久保の服の裾を掴んで離さない。 「……失礼します。」  そっと足を踏み入れた。  中はカウンセラー室に似ている。  アロマの甘い花の香りがしている。 「――ご予約の久保さんですね。あと……進藤さん?」  浜川は一瞬、戸惑いの色を見せたものの、久保の表情を見ると、今度はにっこりと笑って奥の席へと二人を案内してくれた。  亜希は辺りを警戒するように、少し困惑をした表情に変わる。  しかし、久保が「心配しなくていい」と目配せすると、その裾を掴んだまま、浜川の後に続いて促されるままに腰を落ち着けた。 「お時間を割いて頂き、ありがとうございます。」  久保が重い口を開く。 「今日、相談したいのは彼女の事なんです。」 「そうですか。」 「――お願いします。」  亜希の手に力が入り、久保の服に皺が寄る。 「……今日って先生に会いに来ただけだよね?」 「そうだよ。亜希は心配しなくていい。」  ふわりと頭の上に手のひらが降ってくる。  ――トクン。  胸騒ぎがする。
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