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紅茶を一口飲み、大介は語り始める。
「昨日の放課後からついさっきまで、探偵に頼まれて護衛の仕事をしてたんだ」
「護衛?」
「ああ。なぁ硯川、お前はフェイルって組織を知ってるか?」
そこから大介は、一部始終を叶に話して聞かせた。相思相愛のカップルに、救いようのない桜ランクの言技使い。西洋甲冑を着た女性との戦闘に、歯切れの悪い仕事の終わり方に至るまで。
どうしようもないことは理解している。瀬野大介は確かに誰かを守れる力を手に入れることができた。だが、それは自分の手の届く範囲に限られる。
フェイルが組織である以上、今の追っ手を大介がどのような形で撃退しようともあの二人は結局逃げなければならない。生きるために、ひたすら逃げなければならない。――そうなれば、もう大介の手は届かない。
「わがまま言ってるのはわかってるけど、何か方法はないのかって考えが頭から抜けないんだ。節沢さんは優花さんの言技を何らかの形で無効化してる。彼が誰よりも優花さんを愛している以上、被害者は出ないんだよ。でも、フェイルはその意見に納得しなかったらしい」
「……私も、不条理な話だと思う」
苦悩の表情を浮かべる大介の話に、叶も同調する。
「桜ランクが厄介者なのはよく知ってるよ。俺だって自分自身が炎に耐えられるようになっただけで、炎が制御できてるわけじゃない。……だから、今更だけどお前にはここに住んでほしくないんだ。だって、万が一火事にでもなったらお前が」
「馬鹿っ!」
ドンと叶がテーブルを強く叩き、カップが倒れて紅茶がこぼれる。これには大介も目を丸くした。――何故なら、怒れないはずの叶が間違いなく怒っているからだ。
「大介君の言技はよく知ってるよ! 在宅中に発火するなんてあり得ないっ! それに、そんなこと言い出したら私だって火の不始末で火事を起こす可能性はゼロじゃないよ! ねぇ、大介君はもう変わったんでしょ? いつまでも自分をそんな邪険に扱ったりしないで」
包帯少女は、大介の右手を両手で握り締めた。
「大丈夫。私も皆も、アナタを信じてる。アナタの炎は、もう誰かを守るためにしか燃えないよ」
語る姿は、さながら天使であった。少なくとも大介にはそう思えた。
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