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茂みから音がして、優花は慌てて口を噤んだ。即座に速人が優花を背負い、音がした方とは逆の方向へと言技を使い走り出す。
速人の背の上で、優花が後方を確認した。暗さにも慣れた目をよく凝らす。音のした方から現れたのは――新のみ。
「止まってッ!」
叫ぶも手遅れであった。速人の行く手にアキラが現れる。フェイルの二人は挟み撃ちを狙っていたのだ。そして、アキラの構えている武器は――弓。
「くそっ!」
体を倒し向きを変え逃亡を図るも、放たれた矢の先が足を掠めて速人は派手に転倒してしまった。二人の体はその先にあった斜面を転げ落ち、開けた場所へと飛び出した。
二人とも大事には至っていなかったようで、よろめきつつも立ち上がる。目の前には、森を切り開いたところに建っている立派な教会があった。明かりも灯っており、幻想的な雰囲気を醸し出している。
その近くに、警察の乗る白いバイクに跨がった見覚えのある人物がいた。
「おー、随分と派手に転けたね風切さん」
「……剣岳か? 何故お前がここに? そ、それよりも彼女を連れてそのバイクで逃げてくれないか? 悪い奴らに追われているのだ」
「――違うッ! そいつは駄目ッ!」
優花が叫ぶも、間に合わなかった。振り返る速人。彼の腰辺りに、天吾がスタンガンを当てた。
バチンと音がし、同時に速人の体がうつ伏せに倒れる。悶絶する彼を見下ろし、天吾はその頭をヘルメットの上から踏みつけた。
「悪い奴らに追われている? 悪い奴はキミの方だろ」
「やめてッ!」
天吾の足を押し退けて、優花が庇うように速人の前に出る。かろうじで意識を保っている速人は、言葉を発することすらままならない。
ここで、斜面を降りてきたアキラと新が合流した。
「遅いじゃないか二人共。せっかく白バイ借りてこの教会まで飛ばしてきたのに。待ちくたびれたよ」
「別に教会で待ち合わせとは言っていない。教会の付近にいると連絡しただけだ。それにしても、随分と早いな。飛火夏虫は殺したのか?」
「でなきゃここに来てないよ。楽勝すぎてつまらなかったくらいだ」
「嘘つかないで!」優花が叫ぶ。「あの人がそんな簡単に負けるはずないっ!」
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