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◇
一方その頃、風切速人は優花と共に森の中にいた。言技“韋駄天走り”にて街外れまで逃げた後、森の中へと身を隠したのである。
速人の言技は、永遠に走り続けられるものではない。当然スタミナ切れは起こる。加えて人を一人背負いながらなので、体力の消耗はいつもより激しかった。
「ハァ……ハァ……ふ、振り切れると思ったのだが」
「息苦しいなら、そのヘルメット取ったら?」
「これはオレのポリシーだ。そういうわけにはいかない」
肩で息をしている速人がよくわからないプライドを守っていると、近くでガサガサと音がした。同時に、アキラの声も聞こえる。
「いくら逃げても無駄だ。新の言技で貴様らの居場所は常に捕捉できる。聞こえているかヘルメット男。今その女を差し出せば、貴様には手を出さない」
「馬鹿を言うな。女を見捨てるというのは、ハードボイルドではない!」
言い返すなり優花を背負い、速人は言技“韋駄天走り”を発現させ逃亡した。しかし、疲労のせいで発現時間は長くは持たず、三分もすれば切れてしまう。
森の中なので、アキラ達も途中まで使っていたバイクは使えない。だが、新がいる限り速人達を見失うことはない。対する速人は、一度言技を使い逃げると体力が回復するまでまともに動けなくなってしまう。
よって、遭遇しては言技で少し逃げてを繰り返すという状況が生まれていた。もうかれこれ一時間は現状に変化がない。
終わりの見えない現状。発現する度に奪われていく体力。辛そうな速人を見て、優花は謝罪せずにはいられなかった。
「ごめんなさい。こんなことに巻き込んでしまって」
「気にすることはない。オレが自分の意志で攫ったのだ」
「でも、このままじゃアンタが」
「希望がないわけではない。瀬野がいる」
大介の名を聞き、優花は彼に言われた「俺が必ず守るから」という言葉を思い出す。だが、正直期待はできなかった。
「……助けには来てくれないわ。彼との護衛契約は終わっているもの」
「そんなことはない。気づいているならば必ず来る。瀬野はあれで、中々にハードボイルドな男だからな」
「そんなの理由になんて――!」
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