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「いやいや、実際に勝ってるし。学校中の生徒が人質なんだよ? 桜ランクのくせにヒーロー気取ってる彼が、ボクに抵抗できたと思うかい?」
「卑怯者!」
「卑怯で結構。僕らは僕らの正義を全うするだけだ。さぁアキラ、そのキーキーうるさい女をさっさと殺しちゃってよ。舞台は整いておいたからさ」
さぁどうぞと、天吾が教会へ入るよう促す。
「教会か。罪人にはできすぎた死に場所だが、いいだろう。来い」
アキラは言技を発現し西洋甲冑を纏うと、優花の髪を掴み無理矢理教会の中へ引きずり入れた。通路を進んだ先にある巨大な十字架の前で手を放すと、剣を召喚する。
「悪く思うな。正義のためだ」
剣を振り被るアキラ。死を悟り、優花は目をキツく閉じる。
思い出されるのは、彼氏のこと。自分のような者を愛してくれた彼のこと。
不死身の体で毎晩棘の痛みに耐え、弱音の一つもこぼさずに真っ直ぐ自分を愛してくれた。にも関わらず、あろう事かその愛を疑ってしまった。
まだ謝ってもいないのに、自分は死んでしまうのか。彼に出会うまではあれだけ死にたいと思っていたのに、今はこんなにも生きたくて仕方がない。
できることならば、彼とこの教会に来たかった。――結婚式を挙げたかった。
生きたい。
こんなにも、生きたい。
「優花ぁー!」
――声が聞こえた気がした。愛しい愛しい彼の声が。幻聴に決まっているのに。勘違いに決まっているのに。それでも嬉しくて堪らない。
刹那、幻聴では済まされない轟音が教会を包んだ。
教会の扉を突き破り現れたのは、一台のパトカー。続々と降りてくる仲間達。そこには愛しい彼もいて、死んだと聞かされた大介もいて――。
憎まれ貶され罵られてきた自分が、今はこんなにも多くの人に支えられている。その事実が嬉しくて嬉しくて、優花は気がつけば、大声を上げて泣いていた。
「一緒に帰ろう、優花」節沢が言う。「いっぱい泣いて、いっぱい笑おう!」
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