―其ノ陸― #2

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―其ノ陸― #2

 苦痛を気合でかき消し、大介は着地した天吾へと突っ込んでいく。その体は、確かに燃えていた。先程の一撃から推測しても、間違いなく言技が発現している。何故。どうして。彼の言技について探りを入れていた天吾にとって、それは決して理解できないことではなかった。  大介の言技“飛んで火に入る夏の虫”は、危険に身を投じれば投じるほど、つまりは危険が大きくなるほどその火力を増す。確かにこの雨では、爆弾一つ程度の危険に飛び込んでも発火しない。火力が弱すぎるからだ。しかし、一度に大量の赤いテープを突き破ったとなれば、話は別である。  戦闘機の正面衝突。それは即死レベルを遥かに上回る巨大な危険。果たして何本のテープが展開されていたのかは、大介が視力を失っていたので知ることは敵わない。  敵の位置も、浴びせられる攻撃が何なのかもわからない。おまけに言技も使えない絶望的な状況の中で放たれた、巨大な戦闘機。大介は目にも映らず耳にも聞こえないそれに向かい、確実に立ち向かう一歩を踏み出していたのだ。  その結果、雨を蒸発させる勢いを持つ巨大な炎を纏うことに成功した。複言によりスタングレネードによる効力も我慢の対象となり視力、聴力が回復する。ただ、それほどの危険に飛び込んだのだから当然相当のダメージを受けていた。 「ぐっ!」  向かってくる最中でよろめく大介を見て、天吾は右肩を押さえながら笑みを見せた。 「そりゃそうだ! いくらキミでも無傷なわけがない! しかもキミは、さっき自らボクの攻撃を食らいにいった。それは危険に飛び込むのをやめると、せっかく燃え上がった炎が消えてしまうからだろう?」  図星を突かれた大介は、早期決戦を望み脚力を爆発させた。しかし、雨の勢いは強くこのままでは天吾へ攻撃を加えるより早く火が消えてしまう。 「ほら、欲しくて堪らない“危険”だよ瀬野さんッ!」  ペンをマシンガンへ変え、天吾が引き金を引く。大介は弾を一切避けようとはせず、全身で受け止めた。  致命傷には至らないが、ダメージは確実に蓄積されていく。代わりに、炎は勢いを取り戻していった。次に炎が鎮火すれば終わりであるので、大介は弾丸を回避するわけにはいかないのだ。 「何でだよ!」乱射を浴びながら、大介が叫ぶ。「どうしてこんな無理矢理なやり方を選んだ! 他に方法があるはずだろ!」
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