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秘書に何事か伝えて別れると、わたしの方に向き直った。
警戒されないように、エントランスにある簡易喫茶コーナーに誘導して、お茶を持ってきてもらう様にスタッフにお願いした。
ここなら受付からも、周りの人からも見えるし。
例の写真を、送ったかもしれない人。
プレゼン後にわたしを忌々しげに睨んでいた人。
でも今日の彼はどこかすっきりしていて、とてもあんな悪意を込めた写真を送るようには見えない。
「・・・こないだは態度が悪くて、申し訳なかったね」
大手企業の次長らしい口の利き方。
「いえ。それよりプロジェクトの飲食部門と、菜園をウチと組んでやるって聞きました」
美味しいもの、好きな人なのかなあ。
「ええ。ウチは飲食がメインですから」
飲食店や菜園の為の設備、道具、野菜以外の食材など。
やることは無尽にある。
プロが率先してくれるなら、心強い。
「そうですか、美味しいものがたくさん出来そうですねえ」
うっとりと呟くと、目を丸くされてしまった。
あ・・・
「スミマセン」
赤面して俯くと、
「・・・おはぎ、美味しかったです」
柔らかな笑顔を向けられた。
線の細そうなイメージの彼は神経質にも見えたけど、
はにかんだこの笑顔からは、本質は優しい人なんだと言う事が読みとられる。
「・・・まだあんまり上手に作れないんです・・・」
お世辞にシュンとすると、
「自分で作ったんですか?!」
驚かれてしまった。
うちは代々、おはぎの作り方は伝わるので。
母から娘、嫁へと受け継がれる。
「まだおばあちゃんのようには出来なくて」
「いえ・・・とても優しい味がしました」
しょんぼりするわたしへ、優しい言葉を掛けてくれた。
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