第8話 甘い罠

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秘書に何事か伝えて別れると、わたしの方に向き直った。 警戒されないように、エントランスにある簡易喫茶コーナーに誘導して、お茶を持ってきてもらう様にスタッフにお願いした。 ここなら受付からも、周りの人からも見えるし。 例の写真を、送ったかもしれない人。 プレゼン後にわたしを忌々しげに睨んでいた人。 でも今日の彼はどこかすっきりしていて、とてもあんな悪意を込めた写真を送るようには見えない。 「・・・こないだは態度が悪くて、申し訳なかったね」 大手企業の次長らしい口の利き方。 「いえ。それよりプロジェクトの飲食部門と、菜園をウチと組んでやるって聞きました」 美味しいもの、好きな人なのかなあ。 「ええ。ウチは飲食がメインですから」 飲食店や菜園の為の設備、道具、野菜以外の食材など。 やることは無尽にある。 プロが率先してくれるなら、心強い。 「そうですか、美味しいものがたくさん出来そうですねえ」 うっとりと呟くと、目を丸くされてしまった。 あ・・・ 「スミマセン」 赤面して俯くと、 「・・・おはぎ、美味しかったです」 柔らかな笑顔を向けられた。 線の細そうなイメージの彼は神経質にも見えたけど、 はにかんだこの笑顔からは、本質は優しい人なんだと言う事が読みとられる。 「・・・まだあんまり上手に作れないんです・・・」 お世辞にシュンとすると、 「自分で作ったんですか?!」 驚かれてしまった。 うちは代々、おはぎの作り方は伝わるので。 母から娘、嫁へと受け継がれる。 「まだおばあちゃんのようには出来なくて」 「いえ・・・とても優しい味がしました」 しょんぼりするわたしへ、優しい言葉を掛けてくれた。
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