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じっと見つめる目が優しすぎて、涙が出そうなくらい優しくて。
目が離せない――
「名前くらい、呼ばせろ」
「ッ――!」
この人、こんな人だった!? ってくらい、甘い言葉を落とされる。
いや、甘いのか分かんないけど。
私にはドキドキが止められない言葉ばっかり口にする。
台詞慣れ?
いや、そんな慣れとかある?
もうドキドキがドコドコに代わりそうなほど、心臓がおかしなほど活発に動いてる。
「お前は?」
「へっ!?」
「補佐以外で、呼んでくれるよな?」
いつかの時に見た、ニヤリと何かを企んだような顔で私を見る。
この顔……あ、八重子先輩に海人さんの話したあの時と同じだ!!
私はそんなことを思い出しながら、目をキョロキョロさせた。
「えと、あの、えっと……」
私にとって、目の前の人は課長補佐で、その前はトキ兄で……それ以外の選択肢はない。
ってことは――
「お前の兄になる気はないからな、俺は」
トキ兄って言おうと思ったのに、その前に先手を打たれてしまった。
どうしたら良いものかともじもじしていたら握られた私の両手が移動させられて、ソファーでいつの間にか正座していた私の膝上に補佐の両手とともに置かれた。
「いやっ、でも、でもっ」
「でもは禁止」
「えー!? ……や、も、ほんとに……っ」
それ以上の言葉が出てこなくて、焦ってバタバタ動かしそうになる手は押さえつけられて。
どうしようもなくて、ブンブン頭を振る。
テンパると人間むちゃくちゃな動きになるみたいだ。
そんな私を見てくすくす笑う補佐に、なんだか顔が赤くなって止まらない。
「名前、呼ばれたら嫌か?」
その尋ね方が寂しそうに聞こえて、焦った私は勢いよく顔を上げて即答した。
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