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肩口に顔を埋めると、刻也さんの匂いが広がって幸せな気持ちになった。
ギュッと抱き着くと、しっかりと受け止めてもらえる。
それは、当たり前みたいに思えるけれど、当たり前のことじゃない。
とっても、とっても幸せで、ありがたいことなんだって思った。
「萌優」
「はい」
幸せに浸る私の耳元に、名前を吹き込まれてゾクリと震える。
はいと答えると、彼は言った。
「一回だけ言うぞ」
「え……?」
何だろうって考える暇もなく告げられた言葉は、私には予想だにしない言葉だった。
「ムカつく」
「へ……っ?」
何がどうなって、むかつくになったのかがさっぱり分からない。
肩口に埋めた顔を起こすと、すごく不満そうな顔の刻也さん。
――どうして?
「こんなことなら、お前の初めては全部俺がもらいたかった」
「は、は、はっ!?」
初めてと言いたくて、恥ずかしくて「は」しか言えない。
刻也さんは時に私を辱める天才だと思う。
「ムカつく、めちゃくちゃ。お前のこと馬鹿にした奴らが。こんなことなら、中学生のお前を奪っておけば良かった」
「は……!?」
またしても言葉が出ない私。
もはや目の前の人が上司でもあるというのを完全に失念して、失礼な受け答えをしていた。
「あの時……俺はすでに、お前に惹かれてた」
「え……っ?」
「一生懸命で、真面目に頑張るお前が可愛いと思った。でも俺は大学生で、相手は中学生のお前。いやいやまずいだろう、大丈夫か俺、って思った」
突然の告白に、私は固まった。
――嘘だ。うそ、ウソっ!
「信じられないこの感情を、俺はひと夏の気の迷いだと封印した。長井にも言われたよ。『お前、それはないわ』って。けど、お前の話聞いてたらすごく腹立たしい」
「私……?」
「結局8年もかけて遠回りして。結果傷つけた」
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