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あぁ……思い出しても馬鹿すぎる。
喋りながら過去の情景が思い出されて、止めていたはずの涙が零れた。
1度零れると、涙は止めるのが難しい。
ぽたぽたっと続けて落ちる中で、彼の手の甲に一粒落としてしまって泣いてることに気が付かれた。
すぐに解かれた手は、私の両頬に添えられて顔を上げさせられる。
「萌優。ゆっくりでいい」
そっと流れる涙を拭われると、安堵で頬が緩んだ。
――うん。私には、この人が、居てくれる。
そう感じるだけで、心が強くなっていく気がするから不思議だ。
「初めてもらったボーナス、現金支給でしょ? それを全部持って、彼、いなくなったんです。あはは……ほんと、私って馬鹿すぎる」
またポタリと雫が流れたけれど、下に落ちる前に彼の指先が掬い取ってくれた。
そして私の唇にちゅっと優しいキスが落される。
それは昔の彼にされた羽がふわりと落ちたようなキスに似ていたけれど、温かさが全然違った。
初めて温かみの違いを知って、私はまた涙が込み上げてくる。
大事な人からのキスが、こんなに温かくて優しいなんて、私知らなかった。
「辛かったな」
「……うん」
ただそれだけの言葉だけど、私のことを受け止めてもらえたのが感じられて、いつの間にか強張っていた肩の力が緩んだ。
その瞬間に脇の下に手を差し込まれて持ち上げられて、ぎゅっと抱きしめられた。
「守ってやれなくて、ごめんな」
「な、何言ってるんですか!? 全然、全然刻也さんのせいじゃないですっ。私が、私が馬鹿だっただけで……」
「そんなことないだろ。お前の高校以降の話だろ? 俺は中学生のお前に会ってたのに、助けることが出来たかもしれない」
「そう、ですか?」
「ん、そうなの」
そう言って、ギュッとまた腕に力を込めて抱きしめてくれた。
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