328人が本棚に入れています
本棚に追加
/40ページ
「刻也、さん……」
「ムカつく、めちゃくちゃ」
射るように私を見つめる瞳が、力が強すぎて逸らしたくなる。
私はそれでも逸らせずに彼を見つめ返した。
「いいです、遠回りでも。また出会えたから。だから、今度は……捕まえて、くれますか?」
私が不安げにそう尋ねると、刻也さんは目を見開いて固まった後、思い切りため息を吐いたかと思ったら肩を落とした。
それはもう、ガックリって聞こえてきそうなくらいに。
「あのな、萌優」
「はい」
尋ねたことに肩を落とされた私は、少し落ち込みを隠せない。
小さいけれど『はい』と返事をしたのに、刻也さんはどうも不満そうだ。
「どうしてお前は昔からそういう台詞を先に言うかなぁ……」
「へ?」
「いや、何でもない――とりあえず、俺もイイトコみせたいんだが」
「イイトコ、ですか?」
「あぁ」
眉尻を下げてそう漏らす彼が可愛くて思わず笑いそうになる。
けれど、どうやら私は彼のイイトコを奪ったらしいから。
これは反省しなくちゃいけない。
きゅっと笑わぬように力を入れて、彼を見つめると少しばかり硬い表情を浮かべて告げられた。
「江藤萌優さん、俺の彼女になっていただけませんか?」
んんっ、と咳払いをしてから告げられたソレは、あまりにも恥ずかしくて、あまりにも嬉しすぎて。
私は声を失ってしまった。
感無量って言葉がピッタリなくらい、刻也さんの言葉で胸いっぱいになっていると、全く言葉が出ずに私はただ黙っていた。
「コラ、返事しろ。恥ずかしいだろ真面目に言ったのに」
「ひゃぅっ、は、はいぃっ!」
ぽかりと軽く頭を小突かれて我に返る。
目の前の彼は、そんな私を見て苦笑していた。
「んとにお前は……」
申し訳ないと思いながらも、信じられなくて浮かれる気持ちでアワアワしながら確認する。
最初のコメントを投稿しよう!