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「あっはああ、んっ、んっ……はぁん」
理性が飛んだ身体は本能が赴くまま、快楽を貪る獣のようにティルアは腰を振った。
口の端からはテラテラとした色がだらしなく垂れ、身体は玉粒の汗がじっとりと浮かぶ。
男は――アスティスはティルアの素性を無理に聞き出すつもりはないと言った。
そして、ティルアが女性であるのは今宵の舞踏会が最初で最後――ならば素性を知られることは起こり得ない。
ならばこの身体が求める欲のまま身を委ねていいのではないか――ティルアの中の悪魔はそう囁いた。
「っ……、姫……ようやく素直になったか――俺としても嬉しい」
アスティスがティルアの腰を押さえ付け、突き上げる度に身体に震えが走り、意識が飛びそうになる。
「あああっ、ん、ああ……、
はぁん、あ―――ああ、んっんっ」
ティルアにはアスティスの声など届いていなかった。
ただただ身体が欲するままに、本能に従ってひたすら溺れた。
浮き沈みの波に拐われ、そうして身体を弾ませてベッドにへたりこんだティルアの身体をアスティスはそっと抱き起こし、後ろからきつく抱き締めた。
「姫……俺のことを覚えていて、忘れないで。
いつか必ず君を迎えにいくから――」
そんな言葉も、ティルアに届くことはなかった。
いつの間にか眠っていたらしい。
夢から覚めたティルアの傍に人影はなかった。
身体中がずきりと傷んだ。
目に飛び込んできたもの――
シーツを汚す小さく咲いた赤い染みと、嗅いだことのない独特なにおいと、ありのままの姿で寝かされていた自分の姿――
急速に駆け巡る記憶の欠片。
ティルアははっと我に返った。
そうして沸々と湧き上がる罪悪感と絶望感に苛まされ、ティルアは狂うように喚いた。
「う、うわぁあああああああっ!
ああああああああっ!」
それは、大事なものを喪った感覚だった。
長い間封じ込め、これからもずっと封じていくはずだった女性としての部分。
覚悟を胸に生きてきた十六もの年月全てが無駄になったような、そんな喪失感と絶望がティルアを苦しめた。
――ごめんなさいお母様……私は…
ティルアは自分を産んですぐに責任を感じて自害した母親セリアに心の中で詫びて哭(な)き、そうして自分の行為を恥じ、狂ったように笑い出した。
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