第3話  【誕生日プレゼント】

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「確か、三十四歳。うちの兄と同じ年だから覚えてるの。まだ独身みたいだよ。院内でもあの人に憧れてるナースいっぱいいるんだけど、誰も実際にはモーション掛けられないみたい。東大医学部、大学院卒の博士号ドクターだから高嶺の花的な存在」 「東大医学部!?…なるほど、あの年齢でBMっていかにも医者っぽいな。あの車種600~700万はするぞ。いいなぁ、高給取りは。ボーナスは100万くらい貰うんだろうな」 深津さんは、後ろのカウンターにもたれ掛り大きなため息を落とした。 「大学病院は給料安いって言われるけど、それでも月収80万が医者の平均みたいだからボーナスなら当然100万超すでしょ。金銭感覚どころか、生きてる世界が違うんだよ。貧乏人とはさ…」 黒のBMWが、駐車場から国道に入ろうと左にウインカーを点滅させているのが見える。 先生、どの辺に住んでるのかな…このコンビニは初めて?それとも、何度か来店してるのかな。 闇に紛れて消えていく車を見つめながら、ため息に似た吐息が無意識に漏れた。 「今日が誕生日って知ってたら、何か考えて来たのにな。ごめん」 囁くような静かな声が、私の背中に届いた。 「え?…なに?」 一瞬、心ここに在らずであった私は振り返りざまに首を傾げる。 「今度、焼き肉でも食べに行くか。平日の夜なら空いてるか?」 「はい、大丈夫ですけど…焼き肉って、奢ってくれるんですか?」 「当たり前だろ。誕生日のお祝いに誘ってるんだから。発達途上な体は肉食って栄養つけろ」 深津さんは両手を背後のカウンターについて、悪戯気にククッと喉を鳴らした。 発達途上って、この貧相な体のことか!? 貧乏で貧乳!…笑いたいが笑えない。 「失礼な!焼き肉、お腹一杯ゴチになります!ついでに、後でケーキ一個奢って下さい。賞味期限切れの中に無かったでしょ?ケーキ」 仕返しとばかりに、棚から下ろした商品を指さし声を弾ませる。 「何のついでだよ。図々しい奴だな~。いいぞいいぞ、好きなの持ってけ。コンビニのケーキくらい何個でも奢ったる」 深津さんは呆れた口調でそう言った後、目を細めて笑った。
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